
ビートルズ・ブートレッグ55年目の真実
Review 12 TONTO TO643
(Get Back with Let It Be and 11 other songs )
1969年にリリース予定であった「Get
Back」は発売直前になって中止となってしまう。しかし、「Get
Back」に関する情報はかなり詳しく告知されていた。代表例としては1969年夏に発行されたBeatles Monthly Book July
No.72があげられるが、ここにはマル・エヴァンスによるアルバム「Get
Back」に関する解説が掲載され、タイトル、曲順に加え1曲ごとに解説がついていた。また、Rolling stones Magazine (Sep 20, No.42)
にも同様に、曲ごとに解説付きでアルバムが紹介されていたのである。 1970年初頭より、KUM BACKに代表されるブートレッグによって、ファンはおおよそ、曲と内容は把握していた。例えば1970年3月のGet Back(Lemon Records, GET08)ではその発売中止になった「Get Back」を当時のマテリアルだけでを再現しようとしたとうかがえる。
しかし、その時点でのマテリアルでは物足りない部分は多数あった。本来の発売中止となった「Get Back」収録とは異なる編集であったり、音質も良くなかった。
ところが1976年になると、ほぼ「Get Back」に近い形の「Let It Be 315」(未エントリー)というブートレッグがプレスされたのである。


当時、ファンにとって「Let
It Be 315」は必須アイテムだった。誰もがこのブートレッグを探した。ただ、「Let It Be
315」にはいくつかの欠点もあった、音質がクリアではなかったこと、ピッチが不安定であったこと、そして曲順も本来のものとは多少異なっていた。
こういった状況は1980年代前半まで続いた。ただ、「Get Back」を再現するための試みはあった。1980年代初頭に日本で製作された「Let It Be And 10 Other Songs
(LBO1)」では、「Let It Be」の初版ジャケットの校正刷りとして残っているものを白黒ながら再現し 、初めてその写真をフロント・カバーにしたブートレッグだった。数年後にヨーロッパではカラー写真を用い「Let It Be And 10 Other Songs(LBO4/5)が製作されたが、依然として音源は「Let It Be 315」からのコピーであった。
そして1984年夏に待望のブートレッグ「TONTO TO643」が出回ったのである。
フロント・カバーは(LBO4/5)から複写、編集しリメイクしたものだったが(参照→Review04)、音質はこれまでのものとは全く違い、かなり向上した音質だった。
「TONTO TO643」の呼び名は、ディスク・レーベルの「TONTO」、ナンバー及びマトリックスに「TO643」と書かれているためそう呼ばれるようになった。TO 643は1984年夏以降、何度も再プレスされるのだが、なぜかその度にディスク・レーベルやカバーが微妙に変更された。ここでは確認できている限りのプレスごとの違いについて説明したい。

なお、このレビューをまとめるにあたって、当時原宿にあったBeatles専門店「Get
Back」が発行していた「Not A Second
Time」という小冊子を参考にさせていただいた。あとは私自身の記憶に頼りまとめたのだが100%ではない部分もあるためご了承願いたい。
マトリックスに関して先に述べておくが、1987年5月に発売された、別マスターから作られた tont07 以外はすべて同一マトリックスであり、音質に変わりはない。
前述のとおりTONTO TO643の1stプレスは1984年夏であった。ディスク・レーベルにTONTOとプリントされているがこの言葉はスペイン語のスラング。このレーベルは3rdプレスでも使用されるが、こちらの1stプレスの表面は滑沢だが、3rdのほうは細かい凹凸があり、ややザラザラしている。ほぼジャケットと同じ大きさのライナー・ノーツが付属しているが、この文章は前述のBeatles Monthly Book, July No.72から複写されたものである。

↑写真上 Beatles Monthly Book, July No.72

↑写真 TONTO TO643に付属するライナー・ノーツとバック・カバーの印刷

ここで多少話はそれるが、すべてのプレスに付属しているライナー・ノーツの元となったMonthly Bookについて触れておきたい。このブートレッガーはMonthly Bookから複写する際に、「Link Track」の意味を勘違いしたようである。マル・エヴァンスは「Link Track:Save The Last Dance For Me」と「Link Track:Maggie May」と書いた。この「Link Track」はあくまで「次の曲につなげる」という意味である。ところが、ブートレッガーは「Link Track」を曲のタイトルと勘違いしたようだ。正確には「One After 909」の後のインストゥルメンタル・ナンバーは「Rocker」というタイトルである。しかし、バック・カバーには「Link Track」と印刷してしまった。以降1990年代に至るまで、ほとんどのCDを含むブートレッグには「Link Track」と印刷されてしまうことになる。

←こちらはRolling Stone Magazine (Sep 20, No.42)
ちなみにこちらでは「Save The Last Dance For Me」と「Maggie May」においては「Bridge」、つまり次の曲への「橋渡し 」という表現を使っている。
↓下写真は1991年発売のCD「Get Back And 22 Other Songs(YD014)」やはり2曲目は「Link Track」と印刷されている。

2ndプレスは1984年秋から末までに製作された。この2ndプレスもディスク・レーベルに大きな特徴があり、イエロー地にブラックでプリント、小文字活字体で「tonto」とプリントされた。サイド表記は英語でSIDEA/B、STEMRAの文字が印刷されるようになった。STEMRAはオランダの著作権を示すマークで、1980年代にヨーロッパから入ってきたブートレッグにはこのSTEMRAの文字がプリントされていることが多い。(よってオランダ・プレスと考えられるようになったようだが、確実ではない。)フロント・カバーのタイトルでは「Songs」の「S」にわずかに空白部分がある。バック・カバーの写真は1stに比べると結構赤い。ライナーは1stでは両面コーティングされていたが、こちらは表のみコーティング。
3rdプレスは1985年3月頃。大きな特徴は1stと同じディスク・レーベルであるが、表面がザラザラしているタイプ。フロント・カバーは青みがかった写真で、「Songs」の「S」は2nd以上に空白部分がある。 ライナーは両面コーティングされている。
4thプレスは1985年5月のプレス。2ndプレスと同様にディスク・レーベルがイエロー地にブラックでプリント、しかし小文字筆記体で「tonto」とプリントされた。非常に黄色みがかったフロント写真 特に「K」の周りはシミのようになっている。
5thプレスは1986年春頃、ホワイト・ブランク・レーベル。 3rdに似た青みがかったフロント写真に戻った。ライナーは両面ともにコーティングが無い紙である。しかし、ホワイト・ブランク・レーベルのケースでは複数の仕様が確認されている。「Songs」の「S」に2か所空白があるケースとtont05のように1か所だけのケース。また同様にバックのアップル・マークでも異なるタイプがある。
6thプレス(tont06)は1986年秋頃のリリース、最大の特徴はカバーが両面コーティング。「and 11 other songs」は非常にきれい。アップル・マークは芯の右、上部右、下部右に空白がある。
そして1987年5月にリリースされたプレスはマトリックスの異なるもので、別マスタリングで制作された(tont07)。これまでよりも出力レベルが上り、聞きやすい音質となった。
こちらの仕様は、ディスク・レーベルはがホワイト地にブラックで「THE O-TRACKS」とプリントされ、番号、STEMRAなどの表示があるが、カバーに関してははtonto06と全く同じである。このプレスが7thプレスになると思われるが、5thプレス以降定かではない。
実はこのプレスの前の年の1986年にアメリカで「Get Back Masters」というタイトルのブートレッグが登場した。「Get Back Masters」のほうがクリアな音質でTONTO TO643よりも優れていた。そのためマスタリングをやり直したのかもしれない。

←上段は「TMOQ Collection」(1986年)とその中に入っている「Get Back Masters」
下段は1986年末に発売された「Get Back Journals」
「Get Back Journals」の最初のプレスには「Get Back Masters」と同一マトリックスでプレスされた「Get Back The Album」というタイトルのレコードが入った。
「Get Back Masters」が単体でマーケットに出回ったのはごく少数で、「TMOQ Collection」を手に入れなければ、聞くことができなかった。
そのためか「Get Back Masters」の音質の良さが、一般に知られるようになったのは後になってからであった。
今までエントリーした1stプレスから6thプレス以外にも別プレスが見つかっている。これらのプレスは参考資料がなく確かなことが言えないため、不明プレスとしてエントリーする。不明プレス1(tont08)はフロント・カバーの写真が3rdプレスのように青みがかっており、「Songs」の「S」には2か所の空白部分がある。バックのアップル・マークでは周囲にゴミがあるようなノイズがあり、上部と左側に空白がある。ディスク・レーベルは単色のブラック。
次に不明プレス2(tont10)では「Songs」の「S」には、よく見ると3か所の空白部部があり、「and」の「a」にも白い部分がある。バック・カバーの写真は非常に赤い。アップル・マークでは上部と左側に空白があるのだが、左側の空白はこれまでにないくらい大きい空白である。基本的にディスク・レーベルは単色のブラックであったと思われるが、詳細はこちら(→tont10)を参照してほしい。
これら不明プレスのカバーの特徴は統一性がないが、6thプレスと1987年のtont07のカバーが同一であることを考慮すると、それ以降に作られたとは考えずらい。1986年春の5thプレスからその年秋の6thプレスの間に、別プレスがあったと考えるのが妥当であろうか?
では最後になるが、1985年の後半より出回り始めた日本製のコピー盤を紹介しておく(tont09)。

←日本製コピー盤
(Japanese press、tont09)
フロントの写真はやや赤みがかっているがきれい。「S」はわずかに空白があるので2ndプレスから複写したのであろう。
ディスク・レーベルはオリジナルの1stか3rdにものをコピーしている。
最大の特徴はマトリックスが機械による刻印であること。
当然のことながらオリジナルTONOT
TO643からディスク・トゥ・コピーされたものだがさほど音質は劣化していない。よほどオリジナルに似せたかったのか、ラミネート・コーティングがフロントのみで、オリジナルのようにバックへと折り返しになっている。ディスク・レーベルはオリジナルの1stか3rdよりコピーしたものだろうが、表面はつや消しでグレーがかっている。バック・カバーの写真やアップル・マークも複写されたものだろうが、きれいである。マトリックスは日本製ではよくある機械による活字刻印されたタイプである。つくりだけならばこの日本製が一番いい出来かもしれない。



